メダカの生態

メダカの生態

メダカの仲間のほとんどは熱帯地方に生息しているが、ニホンメダカは長い年月をかけて耐寒性を獲得し、青森県を北限とした日本全国に分布している。

その生息環境は水温が比較的高く、水の流れが緩やかで、外敵から身を隠したり、卵を産み付けたりするための水草が繁茂する浅瀬である。

稲作が伝来する以前には、中・下流域のワンドや河川の周辺に広がる湿地など、洪水や干し上がる危険性のある不安定な環境に生息していたと考えられている。

稲作伝来以降は、日本の原風景である里地里山を構成する環境のひとつであり、湿地としての機能を併せ持った田んぼと周りの用水路やため池など、人為的に管理された水系がメダカたちに生息場所を広範囲かつ安定的に提供してきた。

ad2a29171117fcc48171d6de30aa129b_s

ニホンメダカの繁殖期は水温が20℃以上、日照時間が13時間以上になる春から夏にかけてである。この期間は田んぼに水を張りイネを育てる時期と一致し、春の田植えに向けて水が張られると、メダカたちは一斉に田んぼへ侵入し産卵を始める。

産卵はほぼ毎日早朝に行われ、数十個の卵が産み出され水草などに付けられる。10日ほどで孵化して4mm程度の稚魚が誕生する。田んぼは止水域で陽当りがよく水温が高いため、動植物性プランクトンが多く発生し、稚魚の育成に最適な条件を満たしている。

稚魚の成長は早く2〜3ヶ月で2cmほどに成長し、産卵を始める。田んぼで成長したメダカは、夏の中干しの一時的な落水時や秋の稲刈りに向けての落水時に用水路へ移動し、そのまま翌春までは用水路で冬を過ごす。

このように、メダカは稲作のための人為的な水の管理に合わせて季節的に移動しながら、田んぼと周辺水域を利用している。

小川

ニホンメダカを取り巻く環境

体の小さなメダカは鳥や大型魚・水生昆虫などさまざまな生き物の餌となるが、繁殖力の強さと成長の速さで多くの子孫を残し世代を繋げている。

しかし、その一方で絶滅の危険性のある種として1999年の環境省レッドリストでは「絶滅危惧種Ⅱ類」に記載されている。

その原因には、工場・家庭排水の流入や農薬の大量散布による水質の汚染、攻撃性の強いカダヤシとの生息場所や餌の競合、ブラックバス、ブルーギルによる捕食など外来種の影響などがある。

しかし最も大きな原因は、農作業の効率化や農業用水の有効利用のため、乾田化や灌漑用水のパイプライン化、用水路や河川のコンクリート化が進められたことだ。

用水路

これにより、メダカたちが田んぼと用水路の移動ができない、水の流れが速くなる、産卵床や隠れ場所になる水草が生えない、秋以降には水がなくなり冬越しできる恒久的水域が消失するなどの影響が出てしまったのだ。

さらには宅地の造成などによる田んぼ・ため池の埋め立てや、耕作放棄水田の陸地化による生息地そのものの減少など、生息環境の改変・縮小が原因と考えられている。

メダカの仲間はアジア固有の淡水魚であるが、分類学的には海水魚のサンマやトビウオなどと同じダツ目に属す。メダカ科は4属20種あまりが知られており、生息地はインドから東南アジア・中国・朝鮮半島に掛けての稲作地帯と重なり、ニホンメダカと同様に水田とのかかわりを示している。

田んぼ

現在もメダカ科では新種が発見・記載され、今後も種類は増える可能性を秘めているが、一部の種類ではIUCN(世界自然保護連合)のレッドデータブックに記載され、絶滅が心配されている。

メダカはさまざまな分野で利用されている有用な生き物であり、今後も里山(環境)と共に身近な生物多様性を守る活動のシンボルとして注目されるであろう。

小さいながらも生態系の一員として役割を果たしているメダカが、いつまでも我々の隣人としてその姿をみせてくれることを願いたい。